宇宙軍拡・MD(ミサイル防衛)システム配備の危険性
藤岡 惇(立命館大学経済学部教授)
2008/5/4 札幌エルフプラザホールにて講演
主宰: 第9条の会・オーバー北海道
みなさん、こんにちは。北海道は涼しいと思って参りましたら、なかなか暑いですね。私たちと自然との関係がおかしくなってきている現れなのでしょうか。軍事の安全保障よりもはるかに大切なのは、人間の安全・安心、および気候の安全保障だと思います。地球との平和(Peace with Earth)が、地球のうえの平和(Peace on Earth) づくりのカギとなってきたのではないか。過日の台風で倒れた北海道大学のポプラ並木の道を見ながら、こんなことを本日の朝方に考えておりました。
はじめに──MDシステム配備についての世論
ちょうど中国が衛星を破壊するミサイルを打ち上げて自国の850キロ上空で衛星を破壊した直後の2007年の春、雑誌『諸君!』の2007年4月号は、「中国の衛星撃墜事件」を非難する特集記事を組みました。寄稿者のほとんどは、タカ派の人で、「中国けしからん」という議論が大勢を占める中で、『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』の著者の松本零士さんが、次のように言っておられました。宇宙開発というのは、平和のための開発でなければならない。戦争、争いごとを宇宙に持ち出したら大変なことになる、というメッセージを出しておられたのです。
しかしこのメッセージは、今の日本の国内ではまだ十分浸透しておりません。じっさい一昨年防衛省のおこなった世論調査によると、ミサイル防衛というのは「よいことだ」という人が55%ぐらいです。それに対して導入に消極的ないし反対の意志をもっている人が25%ぐらい。現状では2対1という比率で、日本ではミサイル防衛を肯定している人が多い。
しかし世界全体で見ますと、様相は一変します。「宇宙を軍拡競争の舞台にしたら大変なことになる」「それだけは行ってはならない」、そういう決議案が国連総会で去年の11月に採決が行われた。その結果、「宇宙を軍拡競争の舞台にしてはならない」「宇宙に兵器を設置してはならない」ということに賛成した国が170ヶ国。 反対した国は1国、どこかといいますとアメリカ合衆国です。棄権した国は1国で、イスラエル。これが現在の状況なのです。
宇宙の軍事化、宇宙を舞台にする軍拡競争に反対する意見は、世界の多数世論となりつつあるのですが、日本ではまだ曖昧なまま。そもそもミサイル防衛なんていうことは、今まで考えたことがないという人のほうが多いのではないでしょうか。そういう「星雲状態」が、日本の世論の特徴であるだけに、日本国民も真実を知るようになると大きく変わっていくだろうと思います。
想像してごらん、宇宙のことを、そしてそこが全然平和じゃないってことを
宇宙というのが今どのようになっているのでしょうか。この点を知っていただくために、資料の@「宇宙衛星にとり囲まれた地球」という写真を見て下さい。ブッシュ政権が始まったときの国防長官・ラムズフェルドが、国防長官になる1週間ぐらい前に、「宇宙の軍事利用をもっと進めるべきだ」という報告書を議会に提出しました。その表紙を飾っている写真が、これなのです。
真ん中に位置しているのが地球でありまして、地球のまわりに、砂糖をまぶしたダンゴのように、たくさんの衛星、衛星の残骸が回っていますね。だいたい1千キロ以下くらいのところです。
一番外側の地球上空3万6千キロの軌道には、たくさんの通信衛星が陣取っています。これは、24時間で地球を1周する軌道であり、たえず地球上の同一地域のうえに位置しますので、静止軌道と呼ばれているところです。
2万キロぐらいの上空のところにもかなりの数の宇宙衛星が回っています。これはいわゆるGPS(測地)衛星が回っている軌道です。ミサイルを誘導するとともに、皆さん方の自動車を目的地に誘導するカーナビゲーションにも役立てられているGPS衛星の軌道が上空2万キロのところにあるわけです。このように全体として8千個以上の宇宙衛星とその残骸が、地球の上空を周回しています。
右のAにも同じような写真が写っていますが、これは、いわゆる「デブリ」の存在位置を示しています。 「デブリ」というのは残骸、ゴミという意味。これまで宇宙開発の中で使われなくなった、あるいは破壊された衛星の残骸が、すでに数十万個のデブリとなって、地球の周りをまわっている。したがって宇宙の旅行、観光旅行をするにしても、商業的な宇宙開発をしようとしても、宇宙の科学的探査をおこなおうとしても、これ以上デブリを増やすと、危なくって宇宙利用はできないという状態に近づいてきたのです。
昨年1月に中国が衛星攻撃実験をやっただけで、新たに数千〜1万ぐらいのデブリが発生したといわれます。衛星を破壊してしまうとデブリはどんどん増える。このデブリというのは核兵器の素材であるプルトニウムやウランとよく似ており、いったん生まれると、なかなか減らないのです。むしろデブリがまわっている間に衝突して、増殖する傾向さえ生まれかねない。「ケスラー・シンドローム」と呼ばれる現象です。極大の宇宙の世界というのは原子力の極微の世界と似てくるのですね。
NOと言えない日本
いま日本では2つの動きが現れています。 震源地の米国を除くと、世界の中でミサイル防衛(MD)システムの配備に一番熱心なのは日本だと言ってもいいと思います。
米国は、エネルギー資源を確保し、覇権の道具にする思惑をこめて、中国から中央アジア・中東という「不安定の弧」を制圧し、支配する遠大な計画を立てています。「不安定の弧」を包囲し、封じ込めるために、弧の西側の東ヨーロッパのポーランド、チェコにミサイル防衛網を築こうとしています。もう一方の東側にも、中国や北朝鮮、ロシアからのミサイル攻撃をシャットアウトするためのミサイル防衛の「壁」をつくろうと画策しています。さらに米国本土をミサイル攻撃から守るためにカナダやアラスカに「第3の防壁」を築こうとしているのです。
これにたいして、東ヨーロッパの国民は、消極的な姿勢を明確にしています。これをやると「新しい冷戦」がおき、ロシアとの間に軍拡競争が再燃
し、健全な経済発展に支障が生まれることを危惧しているのです。
カナダでも、数年前にミサイル防衛に協力してほしいと強く要請をされたのですけど、カナダは、国をあげて断固拒否したのですね。なぜかというと、これに協力すると「宇宙に兵器が配備されるのは必至である」と。宇宙に兵器が配備されると宇宙の商業開発はできなくなる。そこまで彼らは見通しているのです。したがってそれには協力できないという明確な意思表示をした。その後、カナダは自由党政権から保守党政権に変わるわけですけど、非協力の姿勢はまったく変わっていません。これが現状です。
「宇宙基本法」は何のため?
宇宙の軍事利用をめざして日本に現れている今ひとつの動きというのは、「宇宙基本法」を制定し、宇宙の軍事利用を容認しようという動きです。じっさい「宇宙基本法案」が去年の6月に上程されましたが、連休明けにも自民・公明党案に民主党の一部の国防族の意見をとり入れた修正案を再提案し、通してしまおうという気配が濃厚になっています。[両院で通算4時間という審議を行っただけで、5月21日に参院本会議で可決、成立しました。]
この法案の第14条では、「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講ずるものとする」と明記しています。当面は偵察衛星の導入だったとしても、衛星攻撃能力や「宇宙兵器」開発に突き進まない保証はありません。しかも「国は、宇宙開発の特性にかんがみ、宇宙開発利用に関する情報の適切な管理のための必要な措置を講ずる」(第23条)と規定されており、軍事機密のもとで自由な学問研究が窒息していく懸念もあります。
MD推進論者のあげる論拠とは何か?
ミサイル防衛(MD)推進派の陣営の主張する論拠は、つぎのようなものです。すなわち、MDというのは,北朝鮮(あるいは中国,テロリストなど)によるミサイル攻撃から@日本人の命と暮らしを守るための、A「純防衛」の手段であり、敵地を直接にたたくといった攻撃的な性格のものではない。したがってB周辺国に脅威を与えたり、(核)軍拡競争をあおったりする心配はない。CMDは、軍事技術の点からみても、費用対効果という経済効率の点からみても、合理的な選択だ。D米国が国策として宇宙産業の創出に力を注いだことが米国経済発展の原動力となった。これを機会に日本でも自前の宇宙産業が育つならば、経済政策の観点から見ても結構なことではないか、というわけです。
このような論拠はなりたつのでしょうか。この点を判断するには、戦争のスタイルはどのように変わってきたのか、ブッシュ政権はどのような軍事戦略を実践してきたのかという「事実」を確定する作業から始めることが必要だと考えます。
国連システムのもとでは、戦争・軍拡は当事国の経済を荒廃させる
国連憲章は、19世紀のように金儲けのための戦争・あるいは仇討ちのための戦争はしてはならない。そのために、戦争をして領土を広げたり賠償金をとりたてたりすることを、いっさい認めていません。先制攻撃は絶対にやってはならないし復仇権も否定しています。これが、国連の規則です。唯一「戦争まがいのこと」ができるというのは、突然どっかの国が侵略してきたときにとっさの判断で自らの身を守る、つまり安全保障理事会が何かを決める前の間に、自己防衛をする以外は、すべて戦争行動を禁止したわけです。そういう新しい時代が始まったわけです。
このような国連システムの制約のもとで、アメリカもソ連も、45年間も「冷戦」を続けたわけです。その結果どうなったかというと、矛盾は経済のほうにしわ寄せされる結果となったわけです。すなわち、戦争準備と称して核軍拡をいくら行っても、なかなか戦争で金儲けすることはできない。なるほど軍需産業には膨大な儲けが生まれます。しかし国民経済全体としては、いかに軍備を拡大しても、自らの領土を拡張したり、賠償金を取り立てたり、石油の利権を手にすることは難しくなる。そのため軍拡をすればするほどその国は経済的には衰退する。そのよい実例が、冷戦期のソ連でありアメリカでありました。現在でも「先軍経済」を掲げる北朝鮮は、そのジレンマのなかで、苦しんでいるのだろうと思います。
新型戦争システムを使って、「もうかる帝国主義」を実践しよう
今から8年前にネオコン(新保守主義者)と呼ばれるグループが、ブッシュ大統領をかついで米国の実権を握りました。冷戦の最大の戦利品とは、核の技術、宇宙支配の技術、情報通信の技術ですが、これらを組み合わせて新型戦争のシステムを作り上げると、米軍は無敵になり、米国に歯向かうものを安いコストでたやすく退治することができる。この「夢のような軍事力」を使って、中東の石油資源、中央アジアの天然ガス資源を米国が支配できるならば、成長著しい中国・インド・ヨーロッパもコントロールできるだろうとネオコンの連中は考えたのです。
ネオコンたちが導入を考えた新型戦争システムとは何だったのでしょうか。1990年代も後半になると、兵器システムを司る神経系統を担当する基地は、宇宙空間に配備されるようになりました。宇宙から戦局をにらみ、戦争を指揮し、管理し、評価するものになった。そのうえで反米的と米国が判断する国や勢力には、宇宙を軍事利用することを拒否し、宇宙進出を拒絶する能力も身に付けてきた。つまり米国が、制海権や制空権を超えて、「制宇宙権」を一手に掌握する事態となってきたのです。
この制宇宙権を背景にして、ある「戦域」の戦争は、軍事専用インターネットを通じて地球全体の視点から評価され、地球上に展開されている米軍のなかで必要な戦力が選び出され、この戦域に集中投入されるようになりました。日本に駐留する米軍は、日本地域だけを担当するのではなく、地球全体に介入する軍隊に変貌していったのです。米軍の戦力は、水平方向だけでなく垂直にも延びており、三・六万キロメートル上空の静止軌道に乗る通信衛星が深海の底に潜む原子力潜水艦と交信しています。これを軍事用語で宇宙ベースの「ネットワーク中心型戦争(NCW)」と呼んでいます。
9・11の意味
ただし、こういう新型戦争を現実に行うためには、人々の意識を変える必要があります。 ネオコンがつくった『米国の国防の再建を目指して』(新しい米国の世紀をつくるためのプロジェクト)という報告書には、9月11日事件の伏線となるような記述があります。 「米軍の再構築めざす移行のプロセスが革命的な変化を意味する以上、真珠湾事件のような破局的事件がどこかで起こってくれない限り、このプロセスを期待するスピードで進めることは難しいかも知れない。」と。
ネオコン勢力の期待にこたえるかのような絶妙のタイミングで発生した9月11日事件というのは、じつに奇怪な事件でした。その真相は @まったくの不意打ちであった。A攻撃を予知していたが、あえて傍観していた。B予知していただけでなく、攻撃が成功するように 防衛レベルを下げさせた。C被害を拡大させるために何らかの破壊活動にまで手を染めた。D米国ないしパキスタンの諜報機関が主導した 陰謀だったという説にいたるまでの、多様な見解がありえます。 @はブッシュ政権の今日に至るまでの公式見解ですが、米国の諜報関係の予算総額は、軍事予算の1割にあたる450億ドルです。 年間5兆円もの莫大な税金を投入しながら、テロの動きをまったく察知していなかったというのは、信じられません。もしそうだったと したら大失態なのですが、この件で誰も処分されていないことをみても、@の可能性は低いと思います。ですから真相は、なんらかの 幇助(ほうじょ)関係があったことを前提にするAからDのいずれかでしょう。幇助の決定は、出先の諜報部が単独で行ったのか、 軍部上層部の承認、あるいはホワイトハウスの承認を得たものであったのかといった政策決定レベルの問題も出てくるでしょう。 9月11日事件の真相解明は今後の課題です。(デヴィッド・レイ・グリフィン『9・11事件は謀略かー「21世紀の真珠湾攻撃」と ブッシュ政権』 きくちゆみ・戸田清 訳、緑風出版、2007年)
その後進んだのは、ご存じのように新型戦争の方向に行って「反テロ戦争」が始まって5年になる。こういう時代でありました。
イラク戦争が示したもの──軍事衛星は新型戦争を支える「中枢神経」
さて、イラク戦争が示したものは何かといいますと、「宇宙の軍事利用の第2段階」と私は言うのですけども、その本格的実践であった。第1段階は冷戦のときです。軍事衛星は多少あったんですけど、単なる偵察程度に使われていた。第2段階、新型戦争になりますと、偵察衛星・GPS衛星というのは、兵器に近い役割、準兵器の役割を果たすようになってまいります。
あのイラク戦争のときに使われた爆弾・ミサイルのうち7割が宇宙から精密誘導されていたといわれます。誤差は5−10メートル程度です。一例をあげますと、バグダッド占領の直前にはサダム・フセインがレストランで会食しているという情報が入ってきた。すぐにそれを伝えて、近くを飛んでいる戦闘機からそこを狙った。まさに直撃したのですが、情報入手から35分ぐらいかかっていたことから、結局サダムを暗殺できなかったわけです。
しかしその後、イスラエルでもアフガニスタンでも、宇宙衛星を使い精密誘導で電撃作戦を行い、自動車で移動中の敵の要人を次々と暗殺しています。ですから、反米勢力の立場からみると、2万キロから数百キロの範囲で上空を飛んでいる偵察衛星や測地衛星というのは、まさに兵器以外のなにものでもない。天空を睨んで復讐を誓っていることでしょう。
ここで、少しビデオを鑑賞したいと思います。
MDは、何を守るための防壁か
戦時下では、敵の攻撃から「戦争遂行システム」を守りぬくことが防衛の第一義的な課題となります。したがってMDの第一義的な任務というのは、日本国民のいのちと暮らしを守るのではなく、米国の握る「制宇宙権」とこれをバックにした「ネットワーク中心型戦争」という新型戦争システムを守ることとなるわけです。
日本が担当するMDの防衛対象は日本の領土内の地上資産(基地・司令部や政府中枢)だろうという固定観念を国民は刷り込まれていますが、それは不正確です。宇宙ベースの新型戦争システムこそが守るべき対象であり、地球規模で統合され、攻守一体となったこのシステムを離れて日本領土内に配置された「部分」だけを守ることなど、できない相談なのです。分離した瞬間にシステム全体が意味をなさなくなります。米国の支配層が「集団的自衛権を容認せよ」と、日本政府に圧力をかけてくるのはそのためです。じっさい北朝鮮や中国がうちあげるミサイルが米国向けなのか、日本向けなのか、それとも宇宙衛星を狙っているのかを区別せずに迎撃する可能性が高まっています。
MDとは先制攻撃を促進する装置
ミサイル防衛は純粋に防衛的なものとする第2の論拠は正しいのでしょうか。9月11日事件を契機にして米国の戦略は、大きく転換しました。それなりに国連のシステムに則り、多国間交渉を大切にしてきたこれまでの姿勢は撤回し、米軍は必要ならば先制攻撃を行うし、単独行動も辞さないという態勢に変わってきたわけです。実際、イラク戦争でアメリカは国連事務総長を含む国連加盟国の圧倒的多数の反対を無視してでも、先制攻撃戦略を敢行するのだという新戦略を実践しました。
この新ドクトリンにしたがい、全米戦略司令部傘下の「地球規模攻撃部門司令部」が、イランの核施設にたいして電撃的な先制攻撃を敢行したとしましょう。まず米軍は、イラン軍のミサイル基地をしらみつぶしに先制攻撃し、敵のミサイルをつぶすことに全力をあげるでしょう。仮に90%の敵ミサイルを破壊できたとすると、イラン軍は、残る10%のミサイルを応射してくるでしょう。ミサイル防衛部門司令部というのは、敵の残存ミサイルの応射を封殺し、米軍の先制攻撃を圧勝に導くための「盾」となるのは必定です。ミサイル防衛という用語には、戦争の防止や防衛のためのシステムであるかのような語感が漂っていますが、現下の米国の軍事戦略のもとでは、先制攻撃を促進する装置となるのは必至なのです。
宇宙をも戦場にする軍拡競争をあおらないか
MDが米国の制宇宙権を防衛するものであり、米軍による先制攻撃促進装置だという本当の姿に気づいた国は、当然、この動きに反発し、対抗措置を講じてくるでしょう。
東欧におけるMD網の構築の拠点として、2010年から12年にチェコに地上レーダー施設を建設し、ポーランドに迎撃ミサイル発射基地を建設するという計画を米国が明らかにしまいた。これにたいしてロシアは猛反発しています。東欧におけるMD網の構築に米国が固執するならば、欧州INF条約でいったん全廃した中距離核(INF)ミサイルの生産を再開し、核戦力の増強で対抗するとロシアのプーチン大統領は警告しています。冷戦時代に逆戻りしたかのような雰囲気に東欧は包まれています。
現在米国のばあい、100基ほどの軍事衛星が地球を周回していますが、これらの衛星は、敵の攻撃に大変弱いという特徴があります。ほとんど無防備で周回しているだけでなく、どの地点にいるかを軌道計算することはたやすいことなのです。横腹をさらしたと同然の姿で回っているといってよいわけです。新型戦争システムの「アキレスのかかと」がここにあります。米軍の先制攻撃の恐怖にさらされている国は当然、地上からレーザー光線を発射したり、ミサイルを打ちこむといった方法で、宇宙資産を麻痺させ、新型戦争システムを機能停止に追い込もうとするでしょう。これが「宇宙のパールハーバー」と米軍が呼び、警戒してきた事態にほかなりません。
07年1月10日、中国軍は四川省という内陸部からミサイルを打ち上げて、自国の老朽化した気象観測衛星を撃墜しました。中国は、いつでも米国の軍事衛星を破壊できる能力(衛星攻撃能力)をもっているということを示威したものといえるでしょう。この動きに対抗するかのように、08年2月に米軍は、ミサイル迎撃用に開発したSM−3ミサイルを垂直に打ち上げ、自国の故障衛星を撃墜することに成功しました。宇宙衛星の軌道計算はミサイルの軌道計算よりも容易なため、宇宙衛星のほうがはるかに撃墜しやすいのです。
中国のミサイルが襲ってきたとき、米国は自国の衛星をどのようにして守ったらよいのでしょうか。中国のミサイルは内陸部から垂直に打ち上げられるために、国境外の地球上に配置したMD基地から米軍が迎撃することは、まず不可能です。宇宙衛星に兵器を搭載し、中国の攻撃に宇宙から反撃する態勢を整えるほかないでしょう。中国の軍事施設を宇宙から先制攻撃することも考えられます。MDを配備すれば、宇宙を戦場にしかねない新たな段階に宇宙軍拡を導いていく可能性が高いのです。
安全保障の点で、合理的な選択か
「軍事技術の点からみても、費用対効果という点からみても、MDへの参加は合理的な選択だ」という主張は正しいのでしょうか。ミサイルを使った攻撃側と防衛側を比較した場合、攻撃側のほうが圧倒的に有利となるというのが、専門家の常識となっています。攻撃側は、迎撃ミサイルを回避する措置をはるかに低コストでとることができるからです。攻撃用弾頭を早い段階で散開させるとか、「おとり」弾を多数放出することで防衛側の目をくらますことができますし、攻撃用弾頭を途中で減速させたり、方向を変えたりして、迎撃ミサイルを避けることも容易です。ロシア軍が開発を予告しているように、着弾局面に入った攻撃型弾頭に巡航ミサイルの機能を組み込んでおくと、自在に位置を変え、敵の迎撃ミサイルを回避することもできるでしょう。
たとえ8割の確率で撃墜されるようになったとしても、一つの標的に5発の核弾頭を集中的に打ち込めばよいだけの話です。一発は標的に届き、標的は確実に破壊されるでしょう。あるいはミサイル防衛の壁を回避して、秘密部隊がスーツケース型核爆弾を持ち込み、東京タワーの屋上や原子炉の前で爆発させることもできます。攻撃側は、日米がMDのために費やすよりもはるかに安いコストで、このような対抗手段をとることができるのです。
さらに言えば、攻撃側は、核兵器を使って、米国の宇宙における情報基盤を攻撃し、米軍の誇る制宇宙権を破壊することも容易にできます。宇宙空間で数発の超大型の水爆を爆発させればよいのです。その衝撃波は真空中を減衰することなしに広がりますから、MDを含む新型戦争のしくみを破壊することは難しいことではありません。しかしその結末は悲劇となるでしょう。地球の近くで「超新星爆発」がおこったようなものですら、天空に突然現れた巨大なオーロラを見上げながら、地球上のあらゆる動物は絶滅の恐怖に震えることになるでしょう。MDに固執し、宇宙軍拡を推進していくと、結局は宇宙を舞台にする核戦争に行き着くことになるのです。
したがって、ミサイル攻撃にたいする合理的な防衛策というのは、「盾」を拡充するという軍事的手段に訴えることではありません。外交的手段をもちいて、ミサイルや核兵器そのものを制限したり、禁止したりする以外にないというのが、私の意見です。
MD推進は軍産複合体を太らせ、科学の発展を妨げる
宇宙産業というのは無類の金くい虫です。貴重な資源を「宇宙の穴」に投げ捨てさせ、米国の軍産複合体を太らせることになることは目に見えています。日本における国産の航空宇宙産業の成長をいかに米国が嫌い、妨害してきたかの歴史を、ひもといてください。日本自前の宇宙産業の形成を米国が許すわけがないのです。
宇宙の軍事化が進むと、科学探査衛星や商業衛星にも戦争仕様(さらには核戦争仕様)が求められ、コストアップの要因となるでしょう。軍事機密の名のもとで研究成果の自由な流通が制限され、科学の発展が妨げられることもおこりえます。宇宙が戦場となれば、大量の破片(デブリ)が発生するし、宇宙が放射能で汚染され、宇宙の科学的探査も観光旅行も不可能になってしまうでしょう。平和という環境があってこそ、宇宙開発の科学部門の発展も、商業部門の興隆も可能となることを忘れてはなりません。
とはいっても「宇宙開発の軍事部門(ないし軍民両用部門)にお金を注ぎ込めば、科学部門や商業部門にも何がしかの成果が滴り落ちるのではないか」という反問もありえるでしょう。たしかに「滴り落ちる」可能性はあるでしょう。しかし同じ公金を使うのならば、「滴り落ちる」という偶然の幸運に期待するのではなく、なぜはじめから科学部門・商業部門の有望領域にターゲットを絞って研究資金を投入しないのでしょうか。そのほうが、はるかに効率がよいのは当たり前のことなのに。
東アジアの平和と繁栄のための代替案
北朝鮮・韓国・日本を「非核・非中長距離ミサイル地帯」にする条約を結ぶことができるならば、無料(紙代だけ)で、はるかに深い安全・安心が得られるでしょう。 核兵器だけでなく、東アジア諸国を射程距離におさめる中距離ミサイルも禁止します。そのうえで、北朝鮮を現在のベトナムのような開放経済の方向に誘導していくべきでしょう。北朝鮮の指導部自身がこの方向に誘導されることを望んでいます。「内臓がつながったような東アジア経済圏」を作ることができれば、戦争をおこそうとする経済的動機自体が消えていくでしょう。中国と台湾の関係をよく観察すると、すでにそのような兆しが現れていることに気づくでしょう。このような動きを東北アジア全域に広げていけばよいのです。
宇宙兵器の禁止条約をつくろう
宇宙軍拡を阻止するには、どうしたらよいのでしょうか。07年は「宇宙空間への大量破壊兵器の配備」を禁止した「宇宙条約」制定40周年の年でした。かねてからカナダ・ロシア・中国などは「宇宙空間における兵器の配置の禁止」を明文化する条約修正の運動をおこなってきましたが、さらに南極条約の到達点をもりこんだ修正がなされることが望まれます。
宇宙条約に次の3点の修正を加えるべきだと私は考えています。@宇宙配備の禁止対象を大量破壊兵器だけでなく、敵に損傷を与える実戦兵器一般に広げる。Aこのように宇宙を脱兵器化したうえで、宇宙資産を攻撃・破壊する軍事活動もまた禁止する。B新型戦争システムを支えている宇宙からの精密誘導のしくみについては、これを制限ないし禁止する有効な枠組みを探求する必要があるでしょう。
これにて終了しますが、みなさんの質問をいただいて、質疑応答の中で深めていきたいと思います。どうもご静聴ありがとうございました。(拍手)
[質疑応答]
「日本政府がMD配備をどこに・どのようにしようとしているのか? 何のためにか?」
「現在の攻撃の中身、洞爺に配備されているMD、千歳のPAC3の現状について」
「日本においてMDシステムが一応完成するまでどのくらいの費用がかかるのか?」
「MDシステムと北海道の関係は? どこに設置されるか? どこを想定しているか?」
「日本へのMDシステムの配備は何を目的としてやろうとしているのですか?」
「日本の上空に来るミサイルは、中国や北朝鮮からハワイなどに向けて発射されると思うのですが、これを撃ち落とすのは集団的自衛権にふれるのではないですか? 憲法9条との関係は?」
「MDシステムの導入について話すのですが、北朝鮮のテポドンから日本を守るのならしょうがないという意見が出ます。先生の考えを教えてください」
ありがとうございます。20通も出していただいて。わたしの普段の授業では、閑散としておりますので、とってもうれしいです。
ミサイル防衛(MD)の配備が北海道で、どこでどういうぐあいに展開されているのかということについては、私は素人ですので、みなさんに、むしろ教えてほしいと思います。なぜMDを北海道に配備するのかということで言いますと、本日の講演でも触れましたように、「新しい戦争システム」を守るという、守ったらそれは攻撃に使えるわけですから、攻守一体化というかたちで、そういうような性格を持っているというわけです。したがって、その新しい戦争システムというのは、宇宙を結節点・司令塔にして、地球全体を束ねておりますから、それ全体を守るということなんですね。日本だけを守るということは意味をなさない。すべては軍事専用のインターネットでリンク・統合されていますから。したがって、アメリカとしては集団的自衛権を認めないと、こういう新しい戦争システムというのは機能しないんです。だから日本だけを攻撃から守るといったことは、19世紀の考え方であって、それを忘れろ、捨てろという要求を強くかけてくるというわけですね。したがって、ほんとうに「専守防衛」という考え方でなんとか踏みとどまり、がんばっておられる方も、専守防衛を本当に守る立場から、ブッシュ流のミサイル防衛には反対すべきだと思います。とくに北海道という位置では、東京とか日本の中枢を守ることができません。おそらくアラスカ、ハワイを狙う、あるいは宇宙の軍事基地(衛星)を狙おうとするミサイルを迎撃するという目的をもっていると考えられるわけです。
「とはいっても北朝鮮の脅威にどう対処したらよいのですか」という反問が出されるだろうと思います。「迷ったときは原点に帰れ」という警句がありますが、原点は朝鮮戦争。この戦争を正式に終わらせること、ここから始めるべきだと考えます。朝鮮戦争は法的には終わっていない。休戦状態のままで、50年以上も続いているという異常な事態にあるわけですから。
戦争をおこなっている国は、戦火拡大のプロセスのなかで双方ともによく似てくるものです。たとえばアジア太平洋戦争のなかで日本軍も、重慶政権をつぶすために麻薬取引や偽金を発行し、経済的に弱めようとしました。場合によっては中国人・朝鮮人を大量に拉致してきたわけですから、この間に北朝鮮がやってきたことと同じです。大切なことは、「朝鮮戦争は終わった」と米国に宣言させることです。
北朝鮮のトップ層はバカじゃないと思うのです。彼らは自分たちの未来というのは、今日のベトナムだと。つまり、「開放経済」のもとでやっていく。ベトナムもベトナム戦争が終わってから一時たいへんな時期がありましたけども、ASEANの一国として経済的にも繁栄の時代に入りかけています。ですから、そういう方向に誘導していく。そうすれば解決します。
またMDは、攻撃する側が防衛する側よりも圧倒的に強いという真実に目覚めることも必要です。この点に早く目覚めたのはヨーロッパです。ヨーロッパでは1980年代の終わりに、MDでは駄目だという認識に達し、直接交渉でミサイルそのものを制限する中距離弾道ミサイルを禁止・全廃する条約を米ソ間に結ばせたわけです。そこで冷戦が終わり、経済的な繁栄の時代が始まるわけです。
さしあたり中距離ミサイルだけでも北東アジアからなくす。北東アジアを非核地帯とする。専守防衛の原則を超えるミサイルはもたない地域だと宣言する。東北アジアで非核条約+中距離弾道ミサイル制限の条約を結べば、この問題は基本的に解決します。莫大な軍拡の支出は必要なくなりますから、経済発展にも国民の生活の面でも、良い影響が出てきます。そのような道を歩んでいきたいものです。
「先生のお話を聞いて、MDがたいへんな問題だと思いました。なぜ、こんなにたいへんな問題がマスコミで問題にされていないのでしょうか? 政府や軍需産業の圧力などはあるのでしょうか?」
「アメリカのMD開発がおもてに出ないのはなぜでしょうか?」
「宇宙軍拡の推進勢力としての産軍混合勢力、とりわけ独占企業について、軍需産業・IT産業について教えてください。宇宙と核の覇権は、経済抜きには考えられないと思います」
米国では、軍産複合体の勢力がやはり強いですね。なぜかというと、アメリカの中ではちゃんとした産業は残らなかったんです。今、アメリカの中でそれなりに「いい仕事」をしようとすると、ハリウッドの映画や文化などの著作権、コンピュータ技術の特許権といった知的財産権にもとづく産業。金融を除くと軍需産業程度しか残っていないわけです。しかも軍需産業というのは多国籍企業のように外国には出ていかないんですね。そこで選挙で勝とうとすると、どうしても軍需産業関係の労使の力に譲歩してしまう。
他方では、ミサイル防衛というのは、何のために提起されたのか。本当に必要なのか、といったテーマで国民的な議論をする気風が、日本では欠けてきたことがあると思います。それに対して、例えばカナダでは、当初からミサイル防衛は非常に危ないものだということが国民的レベルで考えられていて、アメリカからどれだけ強く要請されても「協力できません」と拒否することができた。なぜその違いが出てきたかというと、やはり政治家の力もありますけども、学者・シンクタンク、運動体としてのシンクタンクの力が非常に強いんだと思います。
しかし安全保障面の不安を解消しようとすると、外交の力と当事国の市民の間の信頼関係、それから経済的な繁栄をつくりだすことによって、すべての国が「恐怖と欠乏」から逃れられる「共同の安全保障」を作る以外にないわけです。まさに日本国憲法の前文の中には、「われらは諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とあり、第9条では「戦争の放棄・軍備の放棄」を謳っている。まわりの国がそういう行動をとれるような方向へと、そういう仕組みをつくっていく。それをやる以外にないと思います。
この点に関連して、いま東アジアには貴重な経験が生まれています。ベトナム戦争とイラク戦争という誤りは二度と繰りかえさせない、東アジア、さらにはユーラシア大陸を崩れぬ平和の地域にしようという目的をかかげて、着実に前進しつつあるアセアン(東南アジア諸国連合)諸国の歩みです。
サイゴン陥落の1年後の1976年に、ベトナム戦争加担の過ちを2度と繰り返さないという目的をかかげて、アセアン諸国が、TAC(東南アジア友好協力条約)という「平和の共同体」条約を締結しました。そこでは、独立・主権の相互尊重、内政の不干渉、紛争の平和解決、武力の威嚇・行使の禁止、仮想敵をつくらないという原則が定められました。ベトナム戦争の悲劇をもたらした元凶たる敵を求める軍事同盟の思考と絶縁したもので、バンドン会議の宣言や国連憲章、さらに日本国憲法9条1項と酷似した内容が盛り込まれています。
冷戦終了後の1995年、アセアン諸国は率先して「東南アジア非核地帯条約」を締結するとともに(97年発効)、98年には帝国主義の犠牲となった共通の歴史をもつ域外のアジア諸国――日中韓、インドなどにTACへの加盟を呼びかけます。大量加盟の引き金となり、ユーラシア大陸全域に広がる転機となったのが、03年3月に米英が始めたイラクへの先制攻撃型侵略戦争でした。同年10月にイラク戦争の衝撃下で、アセアン首脳会議が、世界文化遺産のバリ島の会場で第2次協和宣言を発し、ユーラシア諸国にTACへの加盟を改めて促します。これをうけて、まず中国とインドが加盟し、04年にはパキスタン、韓国、ロシアが加盟します。日本のばあい、軍事同盟を結んでいる米国への気兼ねから加盟拒否の姿勢をとっていたのですが、アセアン諸国からの強い説得をうけて、04年にしぶしぶ加盟します。
アセアン諸国は、欧州連合諸国とも「平和の共同体」構築にむけた対話を行い、04年10月、ハノイで開いたアセアン+3カ国(中国・韓国・日本)と欧州連合との対話の会合――ASEM(アジア・欧州会合)第5回首脳会議では、ブッシュのむきだし帝国主義路線とは一線を画する「諸文化と諸文明の対話にかんするASEM宣言」に署名します。06年6月には中国とロシア、中央アジア4カ国でつくる上海協力機構(SCO)も、ブッシュ路線を批判する宣言を発表しています。このような経緯をふまえ、 07年にフランスが加盟し、TACは37億人の「平和の共同体」に発展しました。08年にはEU全体も加盟申請する予定だといわれます。
07年12月に再びバリ島で地球温暖化防止のCOP13が開かれましたが、この会議でもTAC とEU が、地球温暖化防止の線で結束し、米国・日本の孤立が際だちました。このような経緯が、最近のドル暴落、ユーロの信用力の向上の隠された背景となっているのです。
このように考えてくると、MDや宇宙ベースのNCWが対抗しようとしている本当の相手とは何か。アメリカの軍事優先主義、一国覇権主義の「むきだし帝国主義」を拒否し、「敵を求める軍事同盟」という19世紀型思想と絶縁しようと試みているTACに体現された思想ではないでしょうか。アジア太平洋戦争と原爆投下の惨劇の中で生まれた日本国憲法9条の生命力は、ベトナム戦争の惨劇とイラク・アフガン戦争の泥沼化の試練をへるなかで鍛えられ、TACという姿をとって蘇りつつあると考える次第です。
「12月のイージス艦「こんごう」のハワイ沖の実験とアメリカの衛星撃破の関連性について」
「昨日、5月3日の読売新聞で、次世代ミサイル防衛が多弾頭式を導入するということに日本が了承したという記事がありました。日本に関する影響はどうなりますか? とくに資金負担は」
「こんごう」が関わった実験というのは、敵の弾道ミサイルを撃ち落とすという実験だったわけです。今のところ日本の国内は全部、弾道ミサイル防衛だというふうに考えているわけですけど、アメリカのほうは今のいちばん弱い点は衛星防衛だというふうに考えております。まだ日本をそこに引き込もうとはしていないけれども、中国に対する警告もあって、アメリカは衛星攻撃をできるような能力を持ってるということを誇示したかった。この衛星攻撃兵器の実験というのは、1980年代、何回も行われているんです。これは弾道ミサイルで当てるだけじゃなくて、X線レーザー、光線を当てることによって破壊する。光線を当てればデブリは出さずに、軍事衛星を麻痺させることができる。コンピュータなんかを故障させるというようなかたちで、実質的に衛星を機能停止に追い込むことができる。そのための実験というのを1987年を最後に、中止していた。地上ではずっと実験をやっていたのですが、宇宙での実験を再開するちょうどよい機会だということで、今年の2月にSM3というミサイルを垂直にうちあげて、米国の故障衛星を撃墜することに成功したわけです。SM3というミサイルは、敵のミサイルを迎撃するためよりも、ASAT兵器(衛星攻撃兵器)として使ったほうが、はるかに効果的だということが、世界中に明らかになったわけです。
2つ目の質問の、『読売新聞』の昨日付けの記事ですね。邀撃ミサイルに1つの弾頭だけじゃなく「多弾頭」、例えば10発くらい弾頭の束をミサイルの先頭につけておく。そうすると10発くらい、敵のミサイルを撃ち落とすことができるという。こういうような新しい開発。それをやりたい。「日本もそれに協力せよ」という記事が出ておりました。私も新聞で拝見して「あ、いよいよ、始まるのだな」と思ったわけです。たしかに、1発のミサイルから10発くらいの迎撃用の弾頭を出すことができれば、迎撃する能率が上がるのは事実です。これを多弾頭搭載型ミサイルといいます。核弾頭は軽くて小さくなりましたから、ミサイルの先端に1発だけじゃなくて20発ぐらい積んでおき、最終段階でパーッと20発くらいにわけて、1つ1つが宇宙衛星から誘導されてターゲットをめざすことができるのです。こういう多弾頭装着型の迎撃ミサイルの技術は、すでに1980年代前半に開発されていましたが、これを迎撃ミサイルに転用したいというわけですね。そしてその開発費用の半分を日本に出させようというのが、昨日の読売の記事の中に載っていたアメリカ筋の意向なわけです。まさに日本は、米国の軍需産業のいいカモとなっていると思いました。
MDにものすごいお金をつぎ込んでも、弾丸の10倍以上の速度で飛ぶミサイルを打ち落とすことは難しい。迎撃ミサイルの実験でも、どこを飛ぶかという情報を完全に握ったうえで迎撃しても、成功率は6割から7割です。仮に8割うち落とせたとしても、単純なやり方で10発中8発がうち落とされるとすれば、同じターゲットにたいして10発打てばいいのです。10発を集中すれば、仮に8発は打ち落とされても、2発は目標に届きます。まして敵の核弾頭が、最終段階で巡航ミサイルとなり、自在に向きを変え、速度を変えるようになると、迎撃することはまず不可能になるでしょう。
通常、攻撃するほうが値段が安いんです。防衛するほうが値段が高くつく。したがって、ミサイル防衛というかたちでやっていくと、経済的にはパンクしてしまう。むしろ攻撃するほうが安くてできるのです。したがって、このような矛盾した競争に巻き込まれると、当事国は経済破産に追い込まれるのではないかと思います。
「福島県の三春町にある樹齢千年の多岐桜の種をロケットに載せて打ち上げたとのことですが、どんな意味があるのですか?」
「アメリカが「カッシーニ」を打ち上げましたが、プルトニウムを搭載してあるとのことです。アメリカに落ちない保証はないのにどうして打ち上げるのでしょうか?」
「日本中にPAC3・SM3が配備されることがよくわかりました。これからの日本はどうなるのか?」
「今の世界情勢から見ると、いずれ究極の宇宙戦争に突入するおそれを感じます。それを避ける方策を示していただきたい」
まず、樹齢千年の種のことなんですけど、よくわかりませんねえ(笑い)。まあ、なんかロマンを追求されているんだろうなあとは思います。
「カッシーニ」の話なんですけど、まさに「カッシーニ」がプルトニウム電池を積んだ宇宙船であるという、それが危ないということから、私が属しています「宇宙への兵器と核エネルギーの配備に反対するグローバル・ネットワーク」が生まれるきっかけとなりました。宇宙兵器を衛星に配備するためにはエネルギーが必要です。宇宙には電線をひくことはできませんからね。そのエネルギー源というのは原子力です。原子力を宇宙に持ってくるのには、2つの種類があって、1つはプルトニウム電池。もう1つは小型の原子炉ですね。両方ともすでに実用化されており、もうすでに実験も行われているわけですけど、「カッシーニ」の場合は原子力電池のほうを搭載していたわけです。その電池で地上に落ちてくると、深刻な環境破壊をもたらすということで、打ち上げのときの危険。それから、「カッシーニ」の場合は太陽をまわって再び地球の重力圏に戻ってきてそこで加速をするという実験をやったんですが、そのときに地球上に落下しないかと、そういう危険があったので、反対運動が広がったんです。ま、幸い落下しなかったわけですけど、これはあくまでラッキーだったというわけですよね。ですから、やはりこういう宇宙開発をする場合には、原子力エネルギーを使うのは非常に危ないと思います。やはり安全なエネルギーを使ってする以外ない。
それとやはり、有人の、人間を宇宙に連れて行くというのは、やはり人間性に反すると思うんですね。宇宙飛行士になりたいとかいうことを言う人はいますけど、宇宙というところは人間が住むところじゃないんですよ。2つ理由があります。1つは、ものすごい放射線障害。つまりヒバクシャになる。地球というのは幸い上空にオゾン層があり、そのおかげでわれわれは天寿を全うすることができている。宇宙というのは人間が長期にわたって住むことができるところじゃない。だから火星に行く場合にはスピードを上げるために宇宙船に原子炉を搭載しようとしているわけです。人権擁護の観点から、宇宙開発をする場合にはロボットが行くべきだと私は思います。宇宙には、ミミズがいないわけですので、イノチの源の土壌がないわけです。人間が生きていくには、ミミズがうじゃうじゃいる肥沃な土壌と宇宙からの放射線を防いでくれるオゾン層の両方に支えられる必要があります。やはり宇宙というのはどういうところなのかを正確に見ないとダメだと思います。
これからの日本なんですけど。やはり、日本だけじゃなくって地球全体が生きていくためには、まず気候温暖化をストップする。これが第一の前提だと思います。だから、今やらなきゃならないのは、第2次大戦当時のようにファッシズム勢力に対抗できるような総動員体制・総動員経済をつくることです。 ただしその目的は、ファッシズムから民主主義と人権を守るということではなく、地球温暖化と戦うためであり、「気候の安全保障」のために「低炭素経済」をつくるためです。つまり、いかにして「減炭素」、炭素が少なくてすむような、もっと樹を植えて、あるいは生ゴミを土に還す。土壌の中を豊かな黒土、炭素をとにかく土に戻していって、豊かな土をつくっていく。こういう地球に変えていく。これを10年ぐらいの間に大規模にやらないと、地球全体が暴走してしまう。したがって、宇宙軍拡をやっているヒマがない(笑い)というのが、まさに今の状況でありまして、すべての発想をそのように変えていく。
もう1つは格差社会をどう変えるか、です。
今、アメリカではサブプライム・ローンで、経済がガタガタになっていますね。それをなんとかしなきゃなりません。兵器を宇宙に持ってくとかじゃなくって、マネーの暴走をどう食い止めるか。そのための対策として、「トービン税」というアイデアがあります。国境を越えてお金が移動する場合に、課税をする。こんにち、1日1兆ドルお金が国境を越えて自由に移動している。年間300兆ドル、それに0.1%取引税をかけるだけで3000億ドルというお金が税金として徴収できるわけですね。軍事費を減らして、軍事取引に課税するというアイデアや国際炭素税も実現させたいところです。これらから上がってくるお金を使って、国連の機能強化、人間の安全保障、パレスチナにおける正義の回復、世界的な貧困の解決、気候の安全保障といった分野に使うようにすべきだと思います。そういうように「安全保障」の根本を変えていく。憲法の前文にあるように、すべての国民は「欠乏と恐怖から逃れて生活する権利」、そういうものを人類全体に保障していく。そういう「新しい安全保障」に転換していくことーーこれが鍵だろうと思います。(拍手)